『おなかが痛いっ!』


  肩こり」や「胸やけ」ってどんな症状ですか?と言われる方は時々見受けられますが,「腹痛」を経験したことのない方はまずみえないでしょう.

●腹痛で入院のダライ・ラマ,胆石手術に成功

●トルエン粒あん,山梨・三重でも被害 下痢や腹痛訴え

●ラッド豪首相,腹痛の原因となった食べ物を明かす

●我慢できないような痛みが琴光喜の腹部を襲った

虫垂炎の疑いがもたれたが,再検査の結果胆石と診断された

などなど,腹痛の原因は千差万別!

今回は,ある程度我慢出来る『腹いて〜』から冷や汗,あぶら汗タラタラの『おなかが痛いっ!』まで,様々な腹痛について考えてみましょう.

【新入社員:松男さんの場合】通勤途中,電車の中で突然の腹痛と便意!途中下車してトイレを探して顔面蒼白.トイレに駆け込み地獄に仏とはまさにこの事!ほっとして電車に乗るのもつかの間.またまたお腹が痛くなり各駅停車で結局会社には遅刻.挙句の果てに,痔も腫れてお尻もヒリヒリ.

【アラフォー:竹子さんの場合】友人とイタリアンレストランのバイキングを堪能した夜,背中から胃のあたりにかけ違和感あり.以前から時々同じような症状があった「竹子さん」はいつもの食べ過ぎと思い様子をみておりましたが,差し込むような痛みで七転八倒.我慢できずに救急車で病院へ・・・

【普段から便秘気味:お梅ばあちゃんの場合】高血圧と糖尿病が持病だが元気なお梅ばあちゃん.今日も元気に畑仕事をして帰ってくると,突然左の下腹部に激痛が・・・いつもの便秘と思いトイレに駆け込むと,便器が真っ赤!


腹痛の原因別種類

  腹痛はその原因により大きく分けると「内臓痛」・「体性痛」・「関連痛」に分けることができます.通常,緊急手術が必要になる腹痛は「体性痛」であり,痛みの程度,強弱よりもその原因が大切です.夜中に突然腹痛に見舞われた時,体性痛だと要注意!

@ 内臓痛

胃や腸などの内臓が痙攣したり,収縮したりした際に感じる痛みで,上腹部や臍周囲,下腹部といった漠然とした範囲での痛みとして感じる場合が多く,嘔吐・下痢などの症状も見受けられます.腸管の収縮により痛みは周期的に強くなり,腹部をおさえて転げ回ったりと動き回る場合が多く,お腹を押すと痛みを感じます.

胃腸炎や食中毒の場合がこの内臓痛で,一般的には内科的治療で軽快し,緊急手術の適応になることはありません.

A 体性痛

腹膜に炎症が加わると,限局した部位に強い痛みが生じてきます.症状が進んでくると,歩行時に響く痛みや打診で痛みが増強してきます.炎症がさらに進むと,腹壁が反射的に緊張して硬くなり,お腹を触られるのを避けてじっと丸まった姿勢でうづくまるようになります.虫垂炎が進行して,右下腹部の痛みが強くなってきた場合などで,緊急手術を考慮しなければなりません.

B  関連痛

 内臓からの痛みの刺激が皮膚へと伝わり,皮膚の痛みや知覚過敏として感じます.痛みとなる原因があるところから離れた場所に感じる痛みです.

外科医は腹痛の患者を診る際,原因がなにであるかに関わらず,緊急的に外科的処置をしなければならない腹痛『急性腹症』を見逃さないように診察します.自分で,「体性痛」かなと思った場合には迷わずにかかりつけ医や応急診療所を受診する必要があり,痛みが「体性痛」であることを正しく伝えることが大切です.


腹痛での受診時の大切なポイント!

 
@ 
いつから痛くなったか?
・・・突然なのか? 徐々になのか?

 普段から出勤時に腹痛と下痢をきたす場合は「過敏性腸症候群」
A  どこが痛いか? ・・・痛みの場所が移動するかどうか?

女性の突然の下腹部痛なら「子宮外妊娠」と「卵巣嚢腫の茎捻転」は見逃してはいけません.
B どのような痛みか? ・・・周期的か?持続的か?

 最初,胃のあたりが気持ち悪く,次第に右下腹部の持続的な痛みで強くなってきている場合は「急性虫垂炎」

C 食事との関係は?・・・食後に痛む? 空腹時に痛む?

 空腹時にみぞおちが痛む場合は「十二指腸潰瘍」

脂っこいものを食べて痛む場合は「胆嚢結石」

お酒を飲んだ後に頻回に嘔吐し,みぞおちから背中の痛みが続く場合は「急性膵炎」の可能性もあります.

D  熱,吐き気,嘔吐,下痢などの他の症状は?

腹部手術の既往があり,お腹が張って嘔吐する場合は「腸閉塞」
便の色も大切です.

高齢者の突然の左下腹部痛と血便なら「虚血性大腸炎」

黒い便なら「胃潰瘍」,「胃癌」や「十二指腸潰瘍」からの出血

血尿はないか?腰も痛くて血尿なら「尿管結石」


その後の「松男さん」,「竹子さん」,「お梅ばあちゃん」

【新入社員:松男さんの場合】

過敏性腸症候群 ストレスなどにより腸管運動のバランスが崩れ,腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢,便秘)を繰り返す疾患です.下痢・便秘の両方に作用し,適切な便通が期待できる薬や,男性に多い下痢型に対して有効な,消化管運動亢進に伴う便通異常(下痢・排便亢進)を改善し腹痛を軽減させる薬も開発されております.

「松男さん」は最近かかりつけ医に処方してもらった朝1回の薬を服用することにより,会社まで快速急行に乗って行けるようになりました.長年悩んで治らないと諦めてみえる方.かかりつけ医にぜひ御相談されることをお勧めします.

【アラフォー:竹子さんの場合】

急性胆嚢炎:胆嚢結石は,洋風の食事摂取を好む肥満の中年女性に多く発生し,急性胆嚢炎は結石の続発症として多くは頻発する仙痛発作で始まります.痛みは進行性で右上腹部に限局し,しばしば右背部へ放散します.発熱,悪心や嘔吐も多く見受けられ,入院処置を要します.内科的治療で炎症が改善しても,胆嚢結石に対し最終的には手術が必要になります.お腹を切らずに,数ヵ所穴をあけて行う腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われます.

「竹子さん」は,救急車で運ばれ緊急入院となりましたが,無事手術も終え,今では以前食べ過ぎと思っていた胃のあたりの違和感もすっかり無くなり,バイキングのレパートリーも増えてきました.先日の健診ではメタボリック症候群!

【普段から便秘気味:お梅ばあちゃんの場合】

虚血性大腸炎:大腸への血液の流れが悪くなり,大腸粘膜に炎症や潰瘍を生じる疾患です.突然の腹痛,血便が特徴です.血管に動脈硬化があるところに便秘などが誘因となって発症するといわれており,高血圧や糖尿病をもった高齢者に多く見受けられます.大腸の左側におこりやすく入院加療が必要です.重症例では手術が必要になる場合もあります.「お梅ばあちゃん」は,すぐにかかりつけ医の先生を受診し病院に紹介入院となりましたが,絶食・点滴による安静加療で軽快し,今まで通り元気に畑に行っております.高血圧・糖尿病だけでなく,便秘にも気をつかい,かかりつけ医の先生に便通のコントロールもしてもらっております.

腹痛は,胃・十二指腸・小腸・大腸・胆嚢・肝臓・膵臓といった消化器が原因となっているだけでなく,膀胱炎や尿管結石などの泌尿器疾患,生理痛・子宮内膜症・子宮外妊娠・子宮付属器炎や卵巣茎捻転といった婦人科疾患等さまざまな原因でおこります.胃が痛いと思っても心筋梗塞の関連痛の場合もあり注意が必要ですが,痛みの程度や部位・性質・腹痛以外の症状や,食事との関連などで原因となる病気がある程度推測可能です.


夜中にバッテラを食べてアニサキス症を発病し,開腹手術を受けた俳優の○繁△弥さんの様にならないためにも,医療機関受診時には『
腹痛での受診時の大切なポイント!』をキッチリ伝えるようにしたいものです.